
編集部が金沢の和菓子店を巡り、人気商品を生み出す秘密に迫るシリーズ記事「和菓子を旅する」。
今回は、金沢ネオ和菓子の代表格「和リトッツォ」などの革新的な商品を生み出し続けている「御菓子司つば屋」にお邪魔してきました。

出迎えてくれたのが、「御菓子司つば屋」3代目の中田敬祐さん。
中田さんは、経営者でありながら、実は和菓子一級技能士の資格を所有する超一流の職人。
卓越した職人技術に加えて、従来の和菓子の枠にとらわれない柔軟な発想からヒット商品を生み出してきました。

1958年創業の金沢和菓子の老舗「御菓子司つば屋」。
その名の由来は、創業時からきんつばの製造を行なっていたことに由来します。
漢字では「金鍔」と書くそうで、趣きのある店内に飾られた大きな「鍔」の御紋が歴史を物語っています。
伝統和菓子の老舗がどのように生まれて、受け継がれてきたか、そしてどのように「和リトッツォ」を生み出したのか、中田さんが工房の中で実演を交えて語ってくれました。
始まりは和菓子屋とパン屋の2刀流
創業当時のお店の佇まい
「つば屋」の創業当時の店名は、「鍔屋パン菓子製造」。
なんと、和菓子屋さんとパン屋さんの2刀流だったそう。
戦後日本で甘いものが今よりも貴重とされていた時代、中田さんのお祖父様の代から、きんつばや大福、菓子パンやケーキといった洋菓子も製造されていました。
今でも多くのお客様から愛される「酒饅頭」
現在ではパン事業は別業態に分かれていますが、創業当時の2刀流のアイデンティティーは今でも受け継がれています。
その代表格が、老若男女問わず大人気の「酒饅頭」。
フワフワともちもち、この相反する食感を同時に実現するのが実はとても難しいそうで、ここにパン作りのノウハウが活用されているといいます。

饅頭生地に、パン作りで主に使用される強力粉を秘伝の比率で混ぜることによって、フワフワともちもちの食感を両立。
その特別な味と食感が地元の方々から多くの支持を集め、特に初夏の氷室饅頭の季節には毎年多くの注文を頂いているそうです。
「和リトッツォ」でお口の中を幸せで満たしたい!

マリトッツォが日本で流行したのは、ちょうどコロナ禍で経済が停滞していた2021年頃。
SNSなどを通して、そのインパクトのある見た目から話題になりました。

そこで思いついたのがこの「和リトッツォ」。
「口の周りに餡やクリームがはみ出るような、多幸感溢れる和菓子があったら面白いと思ったんです」と、中田さん。
和菓子といえば「上品なお菓子」という、これまでの既成概念を覆すことが、ネオ和菓子「和リトッツォ」の本質なのだそう。
自家製どら焼き生地に餡と豆乳クリームをたっぷり重ねて挟みます。
口がなるべく大きく開くように。
大きなどら焼き生地に、これでもかと盛られた餡とクリームの組み合わせ。
クリームは豆乳由来のため、満足感はそのままにカロリーは200kcal以下と控えめ。
この気遣いが嬉しいですね。

実は、クリームにも和菓子職人らしい"こだわり"が。
豆乳クリームは、牛乳由来の生クリームに比べてどうしても油分が少ないためコクが出にくいのが課題でした。 そこで試行錯誤を重ね、バニラエッセンスではなくバニラビーンズを配合することに。豆乳クリームながら、濃厚なコクと満足感を出すことができたのだそうです。満足感を追求する熱い思いが伝わりました。
必見、和菓子一級技能士の技!

繊細で高度な技術を必要とする、上生菓子「はさみ菊」の製造工程をみせていただきました。

まず、白色の練り切り餡に食用色素で淡く色をつけていきます。
簡単に混ぜているように見えますが、手にべたべたこびりつきやすく、素人では絶対に出来ません。
無駄には触れず、最小限のタッチであっという間に色素が広がっていきます。



厳選された北海道産小豆を使用した黒餡を、素早い手さばきでくるくると包んでいきます。
この工程にも職人技が活きており、これだけ高い品質を繰り返し続けられることにも職人技を感じます。

続いて花弁模様の細工を、ハサミで施していきます。
何年も研ぎながら大事に使われているというこのハサミ、他のハサミだと感覚が狂って綺麗な菊が描けないとのこと。
職人さんにとって、道具はもはや身体の一部なのですね。


餡を台に乗せて、くるくると回しながら切れ目を入れていきます。
繊細かつ迅速に。あっという間に菊の模様が出来上がっていきます。
驚いたのは、中田さんの手が一切震えないことです。
何千、何万もの和菓子を作ってきた自信と職人としての誇りが、その揺るぎない手の動きから伺えます。

最後は手のひらに乗せて、全体のバランスを見ながら整えます。
やさしく指の関節でくるくると回すと、美しい花弁が現れました。



仕上げに、黄色で着色した餡を天面にのせて。
息を呑むほど繊細で美しい、「はさみ菊」の完成です。
「和リトッツォのようなネオ和菓子をきっかけにして、幅広い世代の方に、伝統的な生菓子の美味しさに触れてもらえたら」と中田さん。
和菓子文化を長く繋いでいきたいという想いは、先々代や先代から技術と共に大切に受け継いできています。

「桜餅も300年前はきっとネオ和菓子だったように、和リトッツォや他のネオ和菓子も300年後は定番の和菓子になっていて欲しい」中田さんはそう語ります。
どんなものでも、最初は新しいものとして認知されます。時間と共にそれが定番となり、伝統や文化となっていく。私たちはちょうど「和リトッツォ」が生まれた時に居合わせ、それが受け継がれていくのをこれから見ていきます。
もちろんその過程で素材など少しずつ時代に合わせて変わっていくものがあるのと同時に、職人技術のように変わらずに保存されていくべきものもあります。

「いつか、みんながネオ和菓子ばかり作るようになったら、つば屋は王道の伝統和菓子に専念すると思います」と、中田さん。
その言葉からは、酒饅頭や大福、上生菓子に代表される伝統和菓子作りへの自信、そして伝統和菓子文化を守るという思いを感じました。
お店に伺って和菓子とネオ和菓子の両方に触れて、つば屋が創業から脈々と受け継いできた和洋2刀流の技と味を感じて見てください。
ちなみに、「和リトッツォ」を食べる時はお口周りをクリームでいっぱいにするのが正しい食べ方なので、ぜひ子どもに戻った気分で豪快に!
御菓子司つば屋 本店
| 住所 | 石川県金沢市松村5-1 |
|---|---|
| TEL | 076-268-2718 |
| 営業時間 | 8:30-18:00(水曜12:00まで) |
| 定休日 | 木曜 |
| 駐車場 | あり |
この記事のライター
Hata Koichi
幼少期から金沢の伝統文化や高度な技術に触れ、特に繊細に作り込まれた和菓子に大きな影響を受ける。その後20年以上に渡り日本及びフランスの化粧品会社にて口紅や化粧水などの研究開発に従事。モノづくりの目線で、金沢の美しい職人技術を伝えていく。