
金沢で1946年に創業した老舗和菓子店「清香室町」が手掛ける、新しい羊羹「金澤文鳥」。
手のひらサイズの愛らしい姿がSNSでも大人気ですが、魅力は見た目だけではありません。
実はその中には、和菓子処・金沢で培われた伝統の技と、石川県産の厳選素材がぎっしりと詰まってます。
今回、「清香室町」3代目の田中 尚行さんに、「金澤文鳥」の開発秘話や妥協しない商品品質とそれを具現化するための職人技術、これからの和菓子作りへの想いなど、一つひとつのエピソードが点と点でつながっていく物語のようなお話を伺いました。
なぜ羊羹が「文鳥」に?世代を超えて受け継がれた職人魂

2021年12月に発売された「金澤文鳥」は、地元石川県の食材を使った新しい羊羹菓子として、メディアなどでも瞬く間に取り上げられ話題に。
現在でも県内外問わずに好評を得ており、今では清香室町の看板商品である「銘菓くるみ」を凌ぐ勢いの人気商品となりました。
紅茶、棒茶、抹茶そしてコーヒーといったユニークな風味の羊羹ベースの中に、干し柿、小豆といった和菓子に昔から使われるものからホワイトチョコ、ドライフルーツ、ナッツなど洋菓子にも用いられる素材まで、それぞれの羊羹ベースの風味に変化を与える素材を組み合わせているのが特徴。
和菓子のオリンピックと呼ばれる「全国菓子大博覧会」では外務大臣賞を受賞(2025年)しており、名実ともに金沢を代表する和菓子の一つとなっています。
「清香室町」3代目の田中 尚行さん
もともと伝統色の強い和菓子店も、北陸新幹線開通後の観光客増加に伴い、若い世代や外国人客など新しい消費者層などに適応していかなければと考えていた尚行さん。
金沢の老舗和菓子の職人技術が詰まっていることはもちろん、手にとりたい、SNSにアップしたいと思えるような新しい和菓子の着想を始めました。
(左)「北国宝生旅衣」/(右)「金澤文鳥」
まず印象的なのが、手のりサイズの文鳥をモチーフにした可愛らしいフォルム。
実はこのフォルムの原型になっているのが、先代2代目が約40年前に発売した当時では非常に珍しい一口羊羹「北国宝生旅衣」。
包装形態の折り返しが鳥のくちばしに見えることから、一口羊羹と文鳥を繋げる一つのきっかけだったそう。

ではなぜ、幾多ある鳥の中から文鳥がモデルになったのでしょう。
結果として、その愛らしい表情と人懐っこさから幅広い世代に受け入れられたのですが、実は2代目が文鳥を飼っており、尚行さんにとっても馴染みがあったことから選ばれたのだそうです。
しかも、文鳥には毛色が異なる多種が存在することも決め手の一つ。
将来異なる味わいでシリーズ展開を想定していたこともあり、「まさにこの商品のモデルに最適だった」と、尚行さんは話します。
羊羹がつぶれないよう、丁寧に優しくくちばしを折り返して。実はこれがすごい速さなのです。

文鳥の個包装は、機械での自動生産ではなく、「清香室町」の職人さんたちが丁寧に手折りで完成させているのも譲れないこだわり。
職人さんによっての文鳥の表情が微妙に異なるそうで、一つひとつに愛着が湧くため、何度も手に取りたくなるというのがリピートの秘密なのか知れませんね。
どこから食べても美味しい秘密は、均一な成型にあり

石川の和菓子文化発展の特徴は、伝統的な手法や技術を守りながら、そこに新しい価値観や考え方を加えていく「伝統と革新の融合」。
伝統を一番に重んじる他県と異なり、加賀藩前田家は江戸時代からものづくりの町として、新しい技術を持つ職人を全国から数多く受け入れてきた歴史があります。
「清香室町」には、脈々と受け継がれる伝統の職人技術を守りながら、同時に新しい価値観を排斥せず、新しいものは積極的に組み込むという金沢らしい柔軟なものづくり精神があり続けるのです。
「金澤文鳥」には、この精神が特に色濃く反映されています。

「金澤文鳥」の顔となる加賀紅茶味。
「和菓子には日本茶では?」と思いますが、より幅広い世代に響くよう、「紅茶を使ってこれまでとは違う和菓子を作りたい」という発想が始まりでした。
ベースとなる和菓子の選定にも、職人の経験と知恵が。
焼き菓子よりも水分を多く含んだ羊羹が、紅茶の風味や良さを一番発揮できるのではと見込み、開発をスタート。
紅茶の風味が清涼感とともにすっきりと広がり、同時に上品でまろやかな甘さと口当たりを実現させました。
加賀紅茶味の断面をみると、ドライフルーツが偏りなく均一に。
製造過程には、よりお客様が食べる際に美味しく感じてもらうための職人の知恵と技術も散りばめられています。
なかでもこだわっているのが、ドライフルーツなど中の素材をなるべく均一に成型すること。
一口羊羹と言いますが、実際に一口で食べきる人は少なく、カットして少しづつ食べるのが一般的です。
もし羊羹の中の素材が均一でないと、食べる箇所によって素材のバランスが異なり、味わいや風味に違いが生まれてしまいます。
そのため、ドライフルーツを出来るだけ羊羹内に均一に成型することが美味しさの秘訣。
秘伝の充填工程を施すことで、一口目から最後まで、どの箇所から口にしても紅茶の風味とドライフルーツの酸味のバランスが整った味に仕上げています。

紅茶のパウダーを混ぜる際も、ダマになって紅茶の風味が不均一にならないように丁寧に。
当たり前に感じていた品質なので、言われてみないと私達は気づかないかも知れません。
ただそんな細部にまで詰まっている伝統の職人技術が、このヒット商品を支えているのです。
「金澤文鳥」が繋ぐ、職人の技と石川の縁

また「金澤文鳥」は、全ての商品に石川県ゆかりの素材が使用されています。
冬限定商品の「奥能登柿と抹茶味」には、輪島市の「陽菜実園(ひなみえん)」さんの干し柿が。
「陽菜実園」さんは、2024年の能登半島地震、同年9月の能登半島豪雨で大きな影響を受けた農家の一つ。
そんな中でも奥能登柿を待っている県内外のお客様に届けようと前向きに頑張っている「陽菜実園」さんの姿、そしてこれまでと変わらず無肥料で高い品質を維持し続けている美味しい干し柿に惹かれ、被災地の復興への想いも乗せて2024年11月に新商品として発売しました。

蜜のようにとろける口当たりと無肥料栽培による天然の優しい甘さが、抹茶の上質な風味をより際立たせます。
抹茶は愛知県西尾市にある「葵製茶」さんのものを使用しているのですが、ここにも実は石川県とゆかりが。
「清香室町」の本店がある本多町の名は、江戸時代に加賀前田藩を支えた加賀本多家やその家臣達のお屋敷がこの辺りにあったことが由来とのこと。
「葵製茶」の家紋「立ち葵」も本多家のものだそうで、ここにも浅からぬご縁を感じます。

他にも、ナッツと組み合わせた「加賀棒茶味」、能登大納言小豆と組み合わせた「白いコーヒー味」、それに瀬戸内レモンを使った夏限定の「夏の加賀紅茶味」といったシリーズ商品があります。
尚行さんの願いは、「金澤文鳥」を通して加賀紅茶や能登柿といった真心込めて作られた質の高い石川県にゆかりのある素材を知ってもらい、次はその素材に直接触れてもらうこと。
自然災害など苦しいことがありながらも、金沢の和菓子業界だけでなく、色んな業界が手をとりあって石川県そして日本を元気にして行きたいという強い想いが込められています。

「金澤文鳥」を初めて手に取るお客様や贈り物として受け取った方の多くは、はじめはかわいい文鳥のフォルムに惹きつけられて興味を持つのかも知れません。
しかし、一度口にしてその味を実感すると技術や素材の素晴らしさに触れることができます。
そこには妥協することのない職人のこだわりと伝統技術、時には運命的な素材やアイデアとの出会いなどたくさんの小さなストーリーがありました。

文化的位置付けの強い和菓子の新しい居場所や可能性は、すでに変わりつつあります。
この「金澤文鳥」も結婚式の引き出物への依頼があることから、お菓子にスポットライトがあたるバレンタインデーやホワイトデー、クリスマスやハロウィンといったイベントでも和菓子が用いられています。
また「加賀紅茶味」はワインやウィスキーなどの洋酒との相性も抜群とのことで、より幅広い世代に親しまれることで、新しい食べ方が生み出されるのかも知れません。
「新しいものを受け入れて融合する」という柔軟な金沢の気質から生まれ、決して新しい価値観を拒絶しない「金澤文鳥」。
お客様それぞれの文化と価値観で、ぜひ新しい楽しみ方を発見してみてください。
清香室町 本店
| 住所 | 石川県金沢市本多町2-1-2 |
|---|---|
| TEL | 076-262-2556 |
| 営業時間 | 9:00-18:00 |
| 定休日 | 日・祝 |
| 駐車場 | あり(店舗斜め向かい専用駐車場) |
清香室町 金沢百番街あんと
| 住所 | 石川県金沢市木ノ新保町1-1-1 金沢百番街(あんと館内) |
|---|---|
| TEL | 076-260-0131 |
| 営業時間 | 8:30-20:00 |
| 定休日 | 百番街あんとに準ずる |
| 駐車場 | 近隣に有料Pあり |
清香室町 香林坊大和 地下名店街
| 住所 | 石川県金沢市香林坊1-1-1 香林坊大和B1F |
|---|---|
| TEL | 076-220-1099 |
| 営業時間 | 10:00-19:00 |
| 定休日 | 百番街あんとに準ずる |
| 駐車場 | 近隣に有料Pあり |
この記事のライター
Hata Koichi
幼少期から金沢の伝統文化や高度な技術に触れ、特に繊細に作り込まれた和菓子に大きな影響を受ける。その後20年以上に渡り日本及びフランスの化粧品会社にて口紅や化粧水などの研究開発に従事。モノづくりの目線で、金沢の美しい職人技術を伝えていく。