
編集部が金沢の和菓子店を巡り、人気商品の秘密にせまるシリーズ記事「和菓子を旅する」。
金沢尾山神社のそばに1946年から居を構える老舗和菓子店「板屋」が代々受け継いできた風土菓「こもかぶり」。
折り重なった繊細なリボン模様と蜜漬けの大粒の栗が丸ごと入った組み合わせ。
その外観の荘厳さと洗練された味わいを、見て食べて楽しめる金沢和菓子の奥深さを象徴する人気商品です。
でも実は、発売当初は今とは少し違っていたのをご存知でしょうか?

お話を伺うのは、「板屋」4代目を務める板村壮麻さん。
愛らしい見た目に隠された歴史や、伝統製法の秘密、さらには時代に合わせた変化まで。職人として、そして経営者として見据える「板屋」の今とこれからに迫ります。
「初代こもかぶり」にはシンボルのアレと板屋秘伝のアレが入ってなかった!

今やテレビや雑誌でもすっかりおなじみの「こもかぶり」。その誕生は約50年前にさかのぼります。
考案したのは、先々代である2代目店主。
金沢の厳しい冬、土壁を雪害から守るために行われる伝統的な風物詩「こも掛け」を、愛らしい和菓子で表現したそう。
こちらが実際の「こも掛け」
現在では、和菓子のオリンピック「全国菓子大博覧会」で名誉総裁賞に輝いた銘菓「香林(こうりん)」と並び、「板屋」の看板商品として多くの人に愛されています。

実は、初代「こもかぶり」には、トレードマークである大粒の栗が入っていませんでした。
大きなモデルチェンジを行ったのは、壮麻さんの父である3代目。
壮麻さん曰く、3代目は非常に高い技術と感性を持ついわゆる"職人気質"で、味や品質へのこだわりが人一倍強い方だったそう。幾重にも試作をして、見た目、食感、そして味わいの決め手となる蜜漬けの栗に至ったのだとか。

今となっては、栗のない「こもかぶり」なんて想像もつきませんよね。 工房を兼ねた本店では、職人が一つひとつ焼き上げる様子を間近で見られる実演販売も行われており、アツアツの出来立てをその場で味わうこともできます。(12:00〜13:30は休憩及び仕込み作業のため中断)

「こもかぶり」の美味しさ、その最大の秘密は「生地」にあります。
独特の香ばしさと優しい後味が特徴ですが、その決め手となっているのが3代目が開発した「こげ蜜(みつ)」です。
醤油とザラメ糖をじっくり煮詰めて作る特製シロップで、まさに「板屋」伝統の味。
壮麻さんいわく、この「こげ蜜」が入ることで、2代目の頃とは全く違う、深みのある味わいに進化したのだとか。
門外不出のレシピが生む、他では真似できない香ばしさはクセになる美味しさです。
また、薄いのに少しふっくら、しっとりとした食感も魅力。
これには重曹が使われているのですが、サラサラの生地の中では時間が経つと重曹が沈殿してしまうため、職人さんたちは焼く直前にリズミカルに生地を混ぜ合わせ、常に均一な状態を保っています。
細かいところにも職人技が垣間見れますね。
日によって変わる銅板の「うさぎの耳」

生地の準備が終わって、次は焼きの実演です。
銅板に「どら匙(さじ)」という専用道具の裏面を使って薄く均一に生地を敷いていきます。
難しいはずですが、ものすごい速さ!

銅板には「うさぎの耳」のような模様があります。
実はこの跡は、繰り返し焼いていく工程で焦げ残ったもので、新品の銅板にはありません。
この模様は日々変化していて、その度に微妙に火の入り方が変わるため、その度に焼き時間を調整しなければならないのだそう。
「模様が薄い方が火の通りがよく、こげ色が入りやすい」とのこと。
栗の蜜漬けを北海道産小豆の餡を職人さんの手で一つ一つ包んでいきます。
生地が焼ける間に餡と蜜漬けの栗の準備です。
栗の果肉は収穫のタイミングなどによって硬さが異なるため、餡で包む際に力加減を変えなければいけないこともあります。

餡を生地の上に乗せてから、本体部分をくるくると見事に巻いていきます。
この時しっかりと両サイドを閉じて餡がこぼれないように。

最後に海苔を挟んで、「うさぎの耳」の部分を本体に巻き付けていきます。
もちろん力を入れすぎるとちぎれてしまうので、素早く且つ優しくという絶妙な力加減で。
海苔を鉄板の上で予め炙ることで、パリパリとした食感と磯の香りを立たせているのだそう。このひと工夫が独特の風味を出しているんですね!

さっそく温かい出来立てをいただきます! 生地と海苔の香りが一層立って、パリパリとした食感が楽しく、口の中では栗と餡の上品な甘さ。秘伝の「こげ蜜」が生む香ばしさもハッキリと感じます。
なお出来立てはパリパリとした食感ですが、一晩ほど寝かせるとしっとりとして生地と餡が馴染むそう。
出来立てと、一晩ほど寝かせたもの。
どちらが「板屋」のお薦めかと伺ったところ、どちらも違う良さがあるのでその違いを楽しんで欲しいとのこと。
ただ、職人気質の先代は、生地と餡が馴染んで一体となった方がまろやかな味わいとなるため、頑なに一晩程度寝かせたものをお薦めしていたそうですよ。

ひとつずつ手作りの「こもかぶり」は、職人2人がかりで一日で最大約1000個つくるのが限界。 機械製造であればもっとたくさん売ることができるかもしれないけれど、この秘伝のレシピを再現することは不可能。
目先の売り上げや利益よりも大切にしたい「伝統の味」こそ、「板屋」の何物にも変え難い財産なのです。
伝統を守り続けながら、進化していく「板屋」

伝統を大切にする「板屋」ですが、守るだけではありません。
なんとこの商品の名前は「パワーメタル万頭」。 板屋の氷室万頭ではお馴染みになっているかぼちゃ餡の万頭に、なんと"メロイックサイン"の焼印を施した逸品!
実はヘヴィメタル好きの壮麻さんが、「どうしてもヘヴィメタルをテーマにした和菓子を作りたい」という情熱によって商品化したもの。
これがSNSを通じてヘヴィメタルファンの間で大きな話題となり、結果的に今まで和菓子にあまり興味がなかった人たちにも和菓子を届けることができるようになったそう。

もちろん、お菓子としての品質には妥協はありません。
優しい風味のかぼちゃ餡とふんわりしっとりとした皮の相性は抜群。
鮮やかな色味も食欲をそそります。
「こもかぶりのレシピが変わってきたように、時代に合わせて和菓子の伝え方も変わっていく」と壮麻さんは話します。
一番大事にしたいのは石川、金沢のお客様

知名度が上がっても老舗和菓子屋として安心はなく、むしろ危機感や不安の方が大きいそう。
ブームはいつか終わる。その時に、昔からの石川、金沢のお客様を大事にし続けられるかが「板屋」の使命だと話します。
(左)職人の丸山夏樹さん(右)4代目の板村壮麻さん
最後に、壮麻さんに一番好きな商品をたずねると、「おはぎ」と「柏餅」という答え。
実はこれらの商品、以前は作っていたものの現在は作れていないそう。
ただ美味しさにはとにかく自信があるそうで、いつか地元のお客様のために、これら生和菓子を定番商品として再開したい、とのこと。
地元のお客様に、自分が一番美味しいと思うものを味わってほしいという職人としての純粋な一面がみえました。

銅板に日々濃くなっていく「うさぎの耳」を見ながら、出来立てと一晩寝かせた「こもかぶり」の両方を食べ比べられるのは金沢に住んでいる私たちの特権。
ぜひお散歩がてらに、「板屋 本店」へ足を運んでみては。
板屋 本店
| 住所 | 石川県金沢市尾山町10-18 |
|---|---|
| TEL | 076-221-0232 |
| 営業時間 | 9:00-17:00 |
| 定休日 | 水・日曜 |
| 駐車場 | 3台 |
この記事のライター
Hata Koichi
幼少期から金沢の伝統文化や高度な技術に触れ、特に繊細に作り込まれた和菓子に大きな影響を受ける。その後20年以上に渡り日本及びフランスの化粧品会社にて口紅や化粧水などの研究開発に従事。モノづくりの目線で、金沢の美しい職人技術を伝えていく。